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まるでiPhoneの発表会のような華やかさと熱気に満ちた会場。これまで多くのクリーンテックベンチャーや既存の大企業が進出して、しのぎを削ってきたバッテリー業界で、これほど世間の耳目を引いた新製品発表会もまたなかったのでないだろうか。
スペースXでは、地球人を他の惑星に移住させる、という荒唐無稽な計画を実現させようとしているイーロン・マスク氏は、テスラとパワーウォールで何を成し遂げようとしているのか。

「我々は、今のエネルギーの使い方を完全に変えたいのだ」と、全米の注目を集めた4月30日の「パワーウォール」発表会で、テスラの創業者、イーロン・マスク氏は言いました。

エネルギーの使い方について、「世の中は変わるべきだ」「変わったらよい」ではなく、「変えたいのだ」と断言したマスク氏。主語は、「世界は」でも「社会は」でも「我々は」でもなく、「テスラは」。

ここが、クリーンテックの新しい出発点になるのかもしれない、そう感じさせる一言でした。

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再生可能エネルギーに代表されるクリーンテック業界が、IT革命に次ぐ新しい経済の革命だ、などといわれ、シリコン・バレーを中心に注目を浴びたのは、約10~15年ほど前。以降、「ブレイクする」「ブレイクする」といわれながら、なかなか大ヒットがでない、期待の大型新人のような微妙な位置にいたといえなくもありません。

そんな中、ドットコム革命で成功の頂点に立った「ペイパル・ギャング」の一人であるムスク氏が、クリーンテックを牽引する立ち位置でぐんぐん他を引き離しつつある、というのは非常に興味深いことです。「クリーンテック」といえど、新しいビジネスをつくる、それを成功させて世の中を変える、新しい流れをつくる、という命題を完遂するためには、「技術」さえすばらしければすむ話ではない。新しい流れをつくるためには、技術よりももっと大きなもの – ビジョンと呼んでも、目的と呼んでも、大義とよんでも、ミッションと呼んでもいいのでしょうが、それを売れる力があるかどうか、がとても重要になってくる。それをマスク氏はまざまざと見せ付けたような気がしました。

「技術ありき」ではなく、「夢&冒険ありき」。

クリーンテックは、その一世代前の一大イノベーション、ネット技術の破壊的イノベーションと比べて語られることがよくあります。ネット技術の発達が、人々の生活のありかたをディスラプティブに変えたのと同じようなブレイクスルーを、エネルギーや資源の使い方において、クリーンテックはずっと期待されてきたのです。ただ実際には、ネット産業の爆発的成長にクリーンテックは追いついていなばかりでなく、グーグルやアップルのようなアイコニックな巨大成功者を生み出すにも至っていません。

しかし、よく考えてみると、人々がネット技術の発達にこれほどまでに魅入られたのは、それを下支えする革新的な技術のすばらしさではなく、それがもたらしてくれる近未来的な夢や冒険のわくわく感だったのかもしれません。人々は夢や冒険を買い、売るほうはそれを下支えする技術を磨く。

しかし、クリーンテック業界は、ついつい「技術のすばらしさ」をアピールすることに熱中して、技術をそのまま売ろうとし、夢や冒険を世の中にきちんと伝えることを怠った。もちろんこれは批判ではありません。クリーンテックが求められているソリューションは、難度が高く、普通の人には理解しずらいものが多いのですから。しかし、そこを打ち破らないと、マス・マーケットを制覇することはできない。

唯一それを世界の耳目を集める方法でやったのが、イーロン・マスクとテスラだったのではないか、と、この華々しい製品発表会を見て感じました。

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象徴的だったのが、「全米中の消費電力をソーラーでまかなうのに、そんなにたくさんの土地は要らないんだ」というスライド。

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彼がまず問いかけたのは、「太陽光は効率が悪くて、大々的に電気を太陽でまかなおうとすると、ものすごい面積が要ると思っているでしょう?そんな非効率なことはできっこないと思っているでしょう?」ということ。

そしてその答えを、こんなシンプルかつインパクトのある地図で表しました。「実は、こんなちっぽけな場所しか要らないんです。」(地図のブルーの部分です)

ね、できるでしょう?太陽って意外に大丈夫でしょう?

そう、世間に納得させるような導入。

彼は、自社製品を売る前に、まず太陽光そのものを、もう一度、より説得力のある形で売り込もうとしたのです。

「ほんとにこれだけの面積でできるのか?」「ブラフじゃないのか?」という批判も出てきそうなプレゼンのしかたでしょうが、そこは彼には関係ない。そしてまさにそこが、成功した起業家の凄みであるように感じました。

彼ほどの資産と推進力があれば、むしろ、現実を多少盛ることによって、未来を力強く引き寄せる手段を取る。そして、自分には未来を力強く引き寄せることができる、という目算があればこそ、このような大胆な発表ができる。彼にとっては、現実の確かさよりも、未来の確かさのほうが重要なのかもしれません。そして、未来の確からしさを人に確信させること、それこそが、成功する起業家、つまり、これからのビジネスのかたちを作り上げていく人たちが持ち合わせる才能なのかもしれません。

彼が言いたいのは、「うちの製品は、他社に比べてこれぐらい性能が優れているのです」ということではない。よそよりいいから買いませんか?ではない。

「テスラは、エネルギーのあり方を変えるプロバイダーになるんです。」この考え方、いいと思いませんか?賛同するなら、その未来に乗りたいなら、買いませんか?

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Powerwall

Source: Tesla Motors http://www.teslamotors.com/

そう考えると、テスラ→ ソーラーシティ→ パワーウォールという拡大のしかたも、それでしかあり得なかった道筋に思えてきます。

テスラが提供したのは、電気自動車の未来であり、アイコンとして象徴的に語られるような新しい「Cool」「贅沢」のあり方です。コンピュータ業界におけるアップルのような。(もちろんテスラはアップル製品の何十倍も高いですが)テスラはセクシーだった。そしてそれは、世の中の人々、特に力のある人々、トレンドセッターを誘惑するのに成功した。

その次がソーラーシティです。ソーラーシティは、「電気は電気事業者から一方的に買わされるもの」という今の電気市場の仕組みに風穴を開け、消費者に、エネルギーにも選択の自由がある、ということを考えさせた。

選択の自由の先には、「自分のエネルギーは、自分でコントロールする」という青写真が見える。そのためには、蓄電は欠かせません。もし自分の屋根で発電した太陽光を蓄電できれば、「自分の電力」は、完全に自由になる、

電力が自由になったあかつきには、家も、クルマも、すべて自分のコントロール下におくことができる。

壮大なロードマップですが、それをやろうとしているのがイーロン・マスクという人なのだろうと思います。結果がどうなるかはこれから見守る必要がありますが、少なくとも、「新しい流れをつくる」ときのチャージのかけ方は、これぐらい徹底していなければならないのだろう、という凄みを感じた会見でした。