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ロンドンに、グッドジムというグループがあります。走ったり運動したりするときのエネルギーを、自分のためだけではなく、もっと他の人のために使えないか。そんな思いから、ジョギングの目標を、「週に二回、一人暮らしの老人に新聞を届けに行くこと」と決めて、走り始めた若者が興したムーブメントです。一方、スポーツシューズメーカーのニュー・バランスは、自分たちのポジショニングを新たにしたい、という野望を持っていました。「走る」の意義を、個人の自己実現だけではなく、もっと大きな、楽しいものとしてとらえなおしたい。そしてそのパートナーとなりたい、と。
この2つの組織が、ネット上で出会って起こした、「走る」の意味や楽しみに新しい地平を開く、エキサイティングな化学変化。先週行われた、サステイナブル・ブランズ(SB15)からどうぞ。

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Ivo

僕がグッドジムを始めた理由が、二つあるんです。

一つは、「孤独な暮らし」という問題です。

一人暮らしをしていて年を取ってくると、次第に孤立して、一人ぼっちになってしまう。特に街で暮らすお年寄りたちは、人が密集する狭い地域に住んでいるにもかかわらず、どんどん孤立していく。

近くに住めば住むほど、他人のことなんか関係ない、という暮らし方になっているんです。こんな皮肉なことはありません。何かがおかしな方向に進んでいる。

それにもちろん、孤立という、暮らし方の問題だけではなく、年を取ってきた人たちには、生き延びるためのエネルギー源が必要だ、というもっと切羽詰まった必要もあります。エネルギーが補給されなければ、死んでしまうかもしれないのですから。

その一方で、若くてエネルギーを持っている人たちの中に、定期的に運動しない人は、たくさんいる。僕もそうだったんですけど。そして、肥満が社会問題になっている。

片方に孤立してエネルギー源を必要としている人がいるのに、逆側には、エネルギーを持っていながら、それを体の中に溜め込んでいるだけで、何のためにも生かしていない人がいる。

だったら、その二つをつなげばいいじゃないか。

ごれが、グッドジム誕生の理由です。

最初は、僕がジョギングを始めました。6年前のことです。

その目標は、毎週2回、1.5キロほど離れたお年寄りの家に、新聞を届けに行くこと。このおかげで、僕にとっては、「走る」理由ができました。また、お年寄りは、たった一人で暮らす日常に、誰かが訪ねてくれる、という楽しみができたのです。

それが発展してグッドジムになったので、ランニングの途中で、一人暮らしのお取り寄りの家による、というプログラムが、大きな比重を占めています。そこで大事なのは、お年寄りに、この関係に貢献している、という意識を持ってもらうことです。なので、僕らは彼らを「コーチ」と呼んでいます。彼らが僕らに走るモチベーションを与えてくれるわけですから。

僕らの活動はどんどん拡大していますけれど、コーチの3/4が、普段定期的に訪ねてくれる家族や友達を持っていないんです。ですから、彼らは、ジョギングで訪ねてくれる僕らを、友達だと思って大事にしてくれる。

一方ランナーたちのほうも、記録を競う以外の目標が持てる。5キロやマラソンでいい成績を出せなくてもいい。グッドジムに参加することで、新しい目標ややりがいが見つかるわけです。

Source: Sustainable Brands 15 http://www.sustainablebrands.com/digital_learning/slideshow/business_models/how_generate_new_layers_value_innovative_peer–peer_model

Source: Sustainable Brands 15 http://www.sustainablebrands.com/digital_learning/slideshow/business_models/how_generate_new_layers_value_innovative_peer–peer_model

そんなときに、ニュー・バランスの「Runnovation」(走るを「イノベーション」する)というキャンペーンに出会ったんです。

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NBJM「Runnovation」は、ニュー・バランスが2013年に始めたキャンペーンです。スポーツシューズ業界というのは、一方に非常に巨大なブランドがあって、とてもメカニカルに、彼らのやり方で製品を開発している。一方で、小さいメーカーが、細かいニーズに対応するための製品をつくって、小売りに卸している。彼らは、細かいニッチに対応できるメーカーに徹しているわけです。ニュー・バランスは、その中間に新しい可能性を開拓したかった。

そこで、「走るとは何か」ということを、もう一度考え直したのです。

もちろん、走ることによって、健康の維持ができたり、頭がすっきりしてモチベーションがあがったり、いろいろな効果がある。でも、これは個人でやることです。一人っきりの世界なのです。だから、我々は、もっと発展的に「走る」のこれからを語りたかった。それで、Runnovationというコンセプトを立ち上げて、キャンペーンを始めたんです。

これにはいくつかの側面があって、アスリートにスポットライトを当てる試みもその一つです。自分を追い込み、新しい限界に挑む姿勢を応援し、特に新しい技術によってそれを支える。例えば、3D印刷を使って、業界初の競技用のスパイクプレートを開発したりしています。

ですが、一番大きな比重を占めていたのが、「ソーシャル・ランニング」(みんなで走ること)でした。チャリティラン、5K、10K、マラソン、障害競走など、人は今、様々なイベントを、じつに様々な理由で走っている。ですからニュー・バランスは、実際のランナーたちの生の声を拾って、これからの、新しい「走り方」の可能性を探りたかったのです。

Source: Sustainable Brands 15 http://www.sustainablebrands.com/digital_learning/slideshow/business_models/how_generate_new_layers_value_innovative_peer–peer_model

Ivo

僕は、まさに「これだ!」と思った。ニュー・バランスは、「なぜ走るのか」に、今までになかった新しいモチベーションを見出そうとしている。そして、それはまさに、僕らのやっていることだったんです。運動をしつつ、「俺ってすごくいいことしてるヤツじゃないか」と、いい気持ちになれる、「一粒で二度おいしい」、新しい走り方の可能性なんですから(笑)

それで・・・・ツイッターという仕組みがありまして(笑)、それを使って、ニューバランスにツイートしたんです。

「すばらしいキャンペーンじゃないですか。協業したいいんですけど、どこにコンタクトしたらいいですか?」

そしたら、今となりにいる、このジムから返事がきて(笑)

Source: Sustainable Brands 15 http://www.sustainablebrands.com/digital_learning/slideshow/business_models/how_generate_new_layers_value_innovative_peer–peer_model

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NBJMそうなんです。マーケティングにいる人ならだれでもそうだと思うけど、僕もこの「Runnovation」キャンペーンを開始して、反応を見るためにネットにはりついていたんです。そこにこのツイートがきた。それで、グッドジムのことを調べ始めたら・・・・その日はもう使い物にならないぐらい、彼らのことを読み漁ってしまいました。いろいろなプロジェクト、そして、参加した人たちの笑顔、笑顔・・・。

で、これはまさに、僕らのシェアド・バリュー(価値を共有する)の考え方に一致する、と思ったんです。

ニュー・バランスは上場していないので、シェアド・バリューのために、割と自由にいろんなことをやっています。その根底にあるのは、ビジネスとしてうまくやる(Do well)だけではだめだ、ということ。もっと「いいこと」をしないと(Do good)。そういう哲学がある。

なので、とりあえずグッドジムに電話したわけです。それで1時間半ぐらい話をしまして・・・・。

鳥肌が立った瞬間が、少なくとも3回ありました。それで、これは何か一緒にやらなければ、ということになったんです。それで、ニュー・バランスのヨーロッパと、ボストンにある本社とで打ち合わせをして、実現のはこびになったんです。

Ivoもちろん僕らにとって、ニュー・バランスは大企業だし、ほんとに?という感じでしたけど、「Good」のために、というのは大事なことなので、「いい」企業と協業したかった。ニュー・バランスはイギリスにも工場があって、いい評価を得ているので、組むことに意義があると思いました。

そんなこんなで、初めてのツイッターでの出会いから18か月後(笑)、「走ることの意義」の新しいありかたについてのメッセージを、共同で発信し始めたんです。

NBJM今までニュー・バランスは、製品をつくって、その製品のストーリーを語ってきた。消費者はそれをベースに買うかどうかを決める。ところがこのパートナーシップでは、ユーザーであるランナーたちの、パーソナルでエモーショナルなストーリーが、ブランドへの入り口になる。だから、我々にとっては、全く新しい試みなんです。今、イギリスのニュー・バランスのウェブサイトのトップには、グッドジムのランナーたちの写真がありますけど、こういうアプローチも、今までやったことのなかった、大きな、新しい決断だったわけなんです。

Ivo僕らはたくさんのランナーたちのグループなので、ツイッターやインスタグラムを使って、新しい「走る意義」をみんなに投稿してもらいました。そしたら世界中からいろいろな情報が集まって、すごく盛り上がったコミュニティになったんです。

それから、僕らにとってもすごくエキサイティングだったのですが、ニュー・バランスと一緒に、グループ・ランのセッションをテーマにして、TVコマーシャルをつくりました。夜の撮影だったのですが、すごくがんばって、一晩で撮りました。これが3月いっぱい、1日に150回、あらゆるチャンネルで放映されました。

正直言って、「ボランティア」は、プロセスがゆっくりだったり、たくさんの書類に記入しなければならなかったり、つまらなかったりする。

でもこれは、もっともエキサイティングで、楽しいエクササイズの仕方だと思うのです。そして、コミュニティにもいいことができる。

僕は、このパートナーシップは、いいことをするときに杓子定規にしかめつらしく、つまらない方法でやるんじゃなくて、楽しくやることを可能にしてくれる、と思っています。

NBJM僕もグッドジムのクリーンアップキャンペーンのときロンドンにいたんですけれど、これはかなりの重労働です。肉体に負荷が相当かかります。

でも、ランナーたちには、すぐ近くに住んでて同じ電車に乗っているのに知らなかった人との新しい出会いがあったりする。確かに僕が今まで参加したボランティアのどれよりも、楽しかったんです。

そしてまあ、そのハードワークの我々への特典として、このプロジェクトに参加すると、シューズがあっという間にぼろぼろになるということがあって(笑)

だから、たくさんプロジェクトに参加しようと思ったら、たくさんシューズが要るんです(笑)

NBJMニュー・バランスにとっても、メリットのたくさんあったキャンペーンでした。

例えば、ユーチューブでの平均閲覧時間が29秒。これは、30秒程度の動画としてはすばらしい結果だと思います。ソーシャル・メディア上のアクセスはぐんと増えたし、メディアのカバレージも同様です。このストーリーを、たくさんのランニングやスポーツ関係のメディアで記事にしてもらった。

でも何よりも重要なのは、このパートナーシップが、消費者とのコミュニケーションの仕方の、新しい可能性を切り開いてくれたこと。

そして、イギリスでの売り上げもどんどん伸びています。(昨対で3月が58%、4月が80%、5月が108%増!)

さらにソーシャルメディアは、インスタグラムが511%増、フェイスブックが145%増など。

もちろんもともとの母数が小さかったというのもありますけれど、これでニュー・バランスが人々の視界に入ってきたということで、これこそ我々が達成したかったことなんです。

NBJM我々のところにも、「協業したい」「パートナーシップを組みたい」というリクエストは、山のように来ます。なので普通は時間がかかるのですが、お互いに「これがやるべきことだ」とわかっていたら、ほんとに早いんですね。

今回も、グッドジムと最初に電話で話したときに、「いっしょにやるだろう」ということがわかった。そして実際そういことになった。

グッドジムで走っているのは、ほんもののランナーたちだし、本当に楽しんですてきなことをしている。本物なんです。それはすぐわかる。だから、組まない理由がないんです。

Ivo僕にとってエキサイティングだったのは、ニュー・バランスが、会議室にこもって新しいコンセプトか何かをひねり出そうとするのではなく、実際に走っているランナーたちの中に入って、一緒にムーブメントを大きくしようとしてくれたこと。

その興奮をみんながリアルに感じられたことが、結果としてニュー・バランスの数字にも表れていると思うし、ほんとうのムーブメントになっていると思います。

それから、自分が体験する、身をもって体感する、というのもとても重要なことだと思います。そこが入口になれば、ブランドとのつながりや関係は、ずっと長続きするものになる。ニュー・バランスみたいな大企業が、僕らみたいな、小さいけれどリアルな何かを起こそうとしているグループの声を聞いてくれて、支援してくれて、仲間になってくれる。そいういうパートナーシップから生まれてくるものは大きいと思うんです。

他にも、参加しやすいかたちとして、グループセッションというのがあります。集まって、ウォームアップをしたあと、ランナーたちがコミュニティに貢献できる依頼であれば、いろいろなところに行くんです。

公園の美化とか、いろいろな設備や場所の整備。かなりの割合で「掘って」ます(笑)。学校の掃除などを手伝うこともあります。