感謝祭とクリスマスをまたぐ年末の数週間は、アメリカのホリデーシーズン。アメリカ最大の買い物シーズンでもある。特に感謝祭の次の日の金曜日は、「ブラック・フライデー」と呼ばれ、小売店がいっせいにセールに入るため、毎年徹夜組が出たり、殺到する買い物客が将棋倒しになって死者が出たりするほどの大騒ぎとなる。
そのブラック・フライデーに、有名な“Don’t buy this jacket”(このジャケットを買わないで)キャンペーンを始めたパタゴニア。本来ならば客のかき入れ時であるセールのシーズンに、「大量生産・大量消費は、地球の寿命を縮める。本当に必要なものなのか、よく考えてみて。必要ないものは買わないで」と消費者に訴え続けている。

そのパタゴニア、今年は「持っているものを楽しもう」というイベントを、ブラック・フライデー当日に開催。まさに買い物でごったがえすサンフランシスコの人混みをかきわけかきわけ、ショップを訪問してきた。
まず最初に驚かされるのが、ブラック・フライデーにもかかわらず、パタゴニアの店舗がセールを一切していない、ということだ。この時期、お目当ての製品を1ドルでも安く買うため、消費者はセール待ちをする。そんな中での、値引きゼロ。

客は何を期待してやってくるのだろうか。

ショップの外では、現在サンフランシスコなどの都市部で売り出し中の「シェアリング経済」型ビジネス」の急先鋒、Yerdleとの協業による、「要らない古着を持ってきて、アイスクリームとパタゴニアの古着をもらおう」というイベントが始まっていた。かわいらしいトラックが店の前に横付けされており、古着を持ち込んだ人と、アイスをもらう人と、パタゴニアの古着を探す人でごったがえしている。
「シェアリング経済」は、アメリカのサステイナビリティ界でも注目を集めつつあるコンセプト。消費者が「持っている」が「使っていない」状態は、タンスのこやしとなって負の価値しか生み出さない。ソーシャルネットワークをフルに活用し、そういったこやし達を欲しがっている人の手に渡すことで、中古市場を循環させ、活性化させよう、というアイディアが共同消費である。ネット上で自分の家の空き部屋を貸す、エアB&Bなどが先鞭をつけ、グローバルで急成長するUberなどが後を追う。Yerdleは、独自のポイントを通貨としているため、今回古着を持ち込み、欲しいものが見つからなかった人は、ポイントを貯めて、後ほどYerdle上で好きなものを探すことができる。プログラム立ち上げ期間の現在、主要な顧客は、トレンドに敏感な若者と、子供を持つ母親が中心だという。

店内に入ると、iFixitによる、「その場でお直し」ブースに、たくさんの人が並んでいた。iFixitは、「必要ないなら買わないで。持っているものを大事にしよう」と顧客に訴えるパタゴニアのキャンペーン、「コモン・スレッズ」のパートナーでもある、お直しのナレッジベースともいえる存在。iFixitのウェブ上では、アイテム別にパタゴニア製品のお直しの仕方を学ぶことができる。

ブースには針、糸、ハサミを始め、膨大な数の道具と年季の入ったミシンを操るスタッフが陣取り、顧客が次々と持ち込むパタゴニア製品を片っ端から直していく。隣では、スマートフォンなどの電子ガジェットもお直ししている。iFixitが標榜するのは、「お直しの知恵」の共有。複雑化した製品の使い捨てに慣れすぎた現代人は、何かが少し壊れても簡単に直す知識もないし、買いなおしたほうが安ければそうしてしまう。「お直し」をサービスとして提供するには限界がありそうだが、「お直しの知恵」を共有し、スキルのある人々がない人に情報を提供したり、ことあるごとに出かけて行ってその知識を伝授したりする、というのは、ソーシャルネットワキングが進んだ現代版の「おばあちゃんの知恵袋」のようで、有効なツールになりそうだ。
「おばあちゃんの知恵袋」といえば、あらゆる中古品に残存価値に応じて買い取り業者がいたり、お直しをしたり、というのは、江戸時代に成立していたビジネスでもある。サステイナビリティの究極の姿は、クローズド・ループで自足していた江戸時代のような姿であるのかもしれない。ひとつのものを長く使えば、それだけメーカーの売り上げが落ちる、という懸念がよく聞かれるが、このイベントを見ても、ひとつのものを長く使うことによって、新品を提供するメーカーと、それがゴミとなって処理される段階の間に、新しいバリューチェーンができてくるというのがよくわかる。「売る」と「捨てる」の間に、さまざまな創意工夫を凝らしたビジネスチャンスの可能性が見えた。

それにしても、人々が持ち込んでいるパタゴニアの古着の多さには驚かされる。中でも目を引いた男性客。彼は、なんと25年ほども前に買ったというシャツを2枚持ちこんでいた。「首のところが少しほつれてきたので、直してもらえないかなと思って」と言いつつ広げてくれたシャツは、25年モノとは思えないほど手入れが行き届いており、状態がいい。本人いわく、アウトドア派というよりはシティ派なのだが、とにかくパタゴニアのデザインが好きで通い続けているとのこと。
彼がお気に入りというくっきりしたユニークな色合わせのチェックのシャツは、少しづつ進化させながら毎年作られている定番であるようだ。彼は「ほら、今シーズンのはここにあるよ。いいチェックでしょう。他にはこういうのを作っているところはないんだよ」とラックを指さして、まるで自分の子供を自慢するような顔でうれしそうに教えてくれた。

そうこうしているうちに、店内ではニュー・ベルジアム・ビール提供によるビールがふるまわれ、ライブ演奏が始まった。人々は思い思いにビールを飲み、サーモンをつまみ、そう広くない店内を回遊し、試着したりおしゃべりに興じたりしている。特筆するべきはその客層の広さ(子供から60代以上まで)、男性客・一人客の多さと、滞留時間の長さである。みんな何をするでもなく、実にのんびりと過ごしている。
がビールでご機嫌になったころ、パタゴニアが製作したショート・ムービーの上映が始まる。パタゴニアを10年20年と愛用している人たちが、ぼろぼろになるまで着続けたり、子供に譲り渡したりしたアイテムを「自慢」してくれる、実に愛にあふれる短編映画。子供から大人、老人まで、人々はスクリーンのまわりに集まって、ムービーを楽しんだ。このイベントに参加して感じたのは、「アパレルメーカー」としてのパタゴニアの底力。そもそもブラック・フライデーに値引きもしないのに客を呼べる力があるということは、いかなるときにも定価(もちろん決して安くない)を適正価格と評価してくれる顧客が安定して存在するということであり、パタゴニアのビジネスは定価を前提として成り立っているということである。実際この日も、定価の製品はコンスタントに売れていた。また、何をするでもなくぶらぶら回遊している客は、「パタゴニアの店にいて、空間を共有している」だけでうれしいのではないか、そんな風にも見受けられた。
また、パタゴニアの「必要ないなら買わないで」を推進するイベントである、Yerdleによる古着交換と、iFixitによるお直し。これはどちらも、パタゴニアの古着にビンテージとしての価値がなければ成立しない。パタゴニアの古着が欲しくなければ、あるいは、直してでもまだ着たい、と思わなければ、客は集まらないはずなのだ。「Worn Wear」の映画にしても、実際にパタゴニアを10年、20年と愛情を持って着てきた人が今あちこちに存在していなければ、成立しえない。
営利企業であるパタゴニアが「必要ないなら買わないで。持っているものを大事にして」と言えるのは、とりもなおさずパタゴニアが、10年20年経っても魅力を失わない製品を作り続ける力を持っているからである。それがなければ、古着もお直しも、「新しいものが欲しいけど、我慢」という、後ろ向きな選択になってしまう。我慢だけがテーマになってしまえば、今日のようなイベントは、旗振れど踊らずで、客が集まらない可能性だってあるのだ。
しかし、パタゴニアが提供しているのは、我慢ではない。むしろ喜びといえる。顧客は10年20年とパタゴニアを着ることを純粋に楽しんでおり、アウトドアなど様々な経験を一緒に潜り抜けてきた服を戦友のようにいとおしみ、破れやほつれさえ誇りに感じているのだから。
なぜパタゴニアは、幅広い客層に愛される服を作り続けられるのだろうか。
後編に続く